人間なんてさびしいね

失恋する権利だけは皆平等に与えられている

ダサい話。

まともな人間のようになりたいとがむしゃらに生き続けたにもかかわらず、結果として非倫理的行為を人生で二つも起こしてしまった。残るのはあと殺人ぐらいだが、どうも自分は殺人を起こせるほどのパワーに溢れた人間とは思えない。二つのことをする前もそう思っていた。

 

出不精で大阪近隣の土地にしか出歩かない人間だったのが、数ヶ月そこらで休日は関東を一日行き帰りする新幹線に乗る生活をすることになった。車を購入して一旦底値まで落ちた貯金はやっと100万円に到達し、厳しい冬の寒さのごとくまたもや減少の一途を辿っている。新幹線の中、風がごうごうと耳に掠めていく。

寒い時期が好きなのかもしれないと最近になってやっと気付いた。自分の人生を振り返るとき、寂しいときに思い出すのは決まって学校帰りの秋色の川や0℃の世界で煌めく街の夜ばかりなのだ。雪国に住むと人は病んでしまうとよく聞くが、病んでいる人間がそうした湿りけのある場所を好んで暮らしているのだと思う。さむいと人肌が恋しくならない?と新卒の会社で彼氏のいない私にOJTだった先輩が本当に純粋な疑問として問いかけてきた。ちょっと分からないですねと答えたものの、好きな人とのとても眩しい思い出を浮かべていた。五年経った今なら、こう答える。全然ならないですねと、平然とした風な顔で。

まともになりたくてもまともになれず、貯金を切り崩してまで会いに行くのに態度に出さず周りにも決して悟られずと努めてる。全部全部かあべこべだ。

 

最悪な発想ばかり考えてしまう。この歳まで生き続けて良かった。二十代前半までの色んな女引く手数多な奴だったなら絶対私なんか相手にしなかった。学生の頃に我慢を続けてよかった。我慢し続けた結果、最悪な状態になっているワケだけど。最悪なのにこの上ないほど幸福でつらくて死にたい。恥ずかしいことに、この歳で初めてセックスをした。皮肉にも初の相手が初恋の男なのは今後二度とないくらいスーパーウルトラメガラッキーなことである。大学受験で受かった時と迷子になった犬を引き取りに行った時くらい脳内が最高になっていた。そのせいで脳が中学生に出戻りしたようで、初めてセックスした日からずっと結婚だとか妊活だとか子どものワードが出るたびに、アレをしてるのか……と考えている。中学生みたいに、奴が電話してきたり、焼売食ってたり、メガネかけてたり、私の彼氏かっこいい〜とずっとはしゃぎ倒そうとする。セックスまでしたのに、中学生みたいに隣に詰められたりキスされたり手を握ってくれるとウワーーーとなる。でも、中学生じゃない。アラサーだから、向こうが既婚だから、早く死にたいと瞬時に思う。恥ずかしい。ダサい。痛々しい。最悪。どっちも死んだ方がいい。

 

社交的なタイプでもなく社会人サークルにも入ってないので、友達は学生時代のグループやクラブ・バイト関係ばかりだ。だが唯一、社会人になってから出来た友達がいる。バレリーナをしている子で、高校の友達の友達だった。3人で遊んでいたのが、友達が結婚で引っ越して、2人で遊ぶ関係になった。その子に、マッチングアプリで会った人の話と偽って相談をした。私も浮気されたことあるから普通にボコボコにしたいなとしか思わん、と笑いながら言われた。なんとなく正気に戻った気がした。そしてこの子に嫌われたくないなあ、とぼんやり考えた。そいつ無理すぎる、とティーポットをボコボコに殴るフリで笑わせてくれて、絶対この子に嫌われたくねえ〜って結論づいた。

もう一人相談した人がいる。家が徒歩20秒なのに、学校が一度も被ったことがなくて、地元で唯一のオタク友達だった。コミュニティが被ってないのをいいことに、赤裸々に全てを話してしまった。偏見フィルターの考えなのだが、オタクはこういう時に社会的かつ正論の意見を言ってくれると信じて、断罪されたくて言ってしまった。友達は、言いにくいけど〇〇君が本当に自分の事が好きなら前から絶対積極的に連絡取ってきたりアプローチしてくるはずだと、お互いが本当に結婚を望んでるなら一旦別れて〇〇君が今すぐ離婚してから付き合えばいい話と、親も友達も私も絶対お祝いしないし結婚式には行かないと。私はてっきり死ねだとか、カスだとかの暴言を期待していて、でも返ってきたのは超現実的かつド正論のアドバイスと評価だったので、この友達にこれ以上失望されたくねえ〜と泣きそうになってしまった。発言小町のベストアンサーから引用したみたいな答えが、結局は周りの目なんだなと分かりきっていたはずのことを思い知らされた。人間としてツーアウトなのに、友達にはずっと恵まれている。

 

どん底にいた時に、入れ歯のおばちゃんにキスされた事がある。仕事の先輩とおじさんからもキスされたことがある。他人の口って臭くてベロも病原菌がいっぱいついてそうで、こんなに不快なことないなと今でもゲボが出そうな気持ちになる。初恋の男ともキスをしたら気持ち悪いと思った。歯がネトネトしてて気持ち悪いなと。奥さんも同じこと思うんだろうか。喉を鳴らすクセが小学校の頃から大好きで、声も恐竜みたいな喉仏が動く仕草もセクシーで、そういう話を私が話しても誰も喜ぶ人がいないのがとても悲しくなってきた。

今日ゴルフの打ちっぱなしに行った時、江國香織の『きらきらひかる』で主人公がゲイの旦那に恋人とのセックスの話してってヒステリックを起こすシーンを突然思い出した。私も平然として、奥さん今日なにしてんのって聞いてみた。聞かなければよかった。あの時も、玉砕目的で告白なんてしなきゃよかった。こういうことばかりだ。分からんって言われて、ずっと機嫌が悪くて、まだお昼なのに雪降るかもやから帰ろって言われて。もう別れたいと思った。

別れるってなんなんだろう。私が一方的に付き纏っているだけなんだろう、向こうとしては。ここに来るまでに5時に起きてメイクも髪もやって、服だって死ぬほど考えてる。アンタと会うために往復2万かかってる。向こうもそうだ。早く死にたい。もう大阪に着かないで。スーパーウルトラメガラッキーをどうしてこんな歳で使っちゃったんだろう。どん底に行く前に、それこそ本当に玉砕覚悟で他の女の子達に嫌われてもいいから告白しておけばよかった。最近ずっと美人に生まれ変わる妄想ばかりしている。美人に生まれて、幼稚園で会った時からアプローチして、小学校で付き合って他の子達もあの子なら仕方ないかって思われて、20代で結婚式挙げて幼稚園の頃からの写真をずらっと並べて、美男美女だねって、友達みんなにタイタニックの最後のシーンみたいにお祝いされたかった。色んなところデートして、指輪とプロポーズしてもらって、私もウエディングドレス着てカッコよく決めた奴と一緒に写真撮って、一緒の家に住んで子ども育てたかった。子どもに、ママは秋と冬が好きだなって、パパと寒いなか夕方の河川敷を一緒に帰ったり、デートしてマフラー買ったのがすごく楽しかったからって話したかった。

大好きな友達の話も聞かず、大好きな犬をほっぽって、いい歳して私本当に何やってるんだろう。

中学まで学年ぐるみでバイ菌扱いされてる子がいた。明らかに自閉症発達障害がある子で、私はいじめたことなかったけど、1番いじめが酷かったグループに入ってたから、見て見ぬふりをしてた。だからどれだけ人生で辛い事があっても、その時の報いなのだと受け入れている。でも1番ボロクソに扱っていた子達は結婚したり海外回ったり事業始めたりしてて、なんで私だけが報いを受けなきゃいけないの?と考えてしまいそうになる。本当はその子なんて関係なくて、私が何もせずに今日まで来ただけなのに。

 

人生をやり直したい。自分の人生に向き合えない。新大阪に着いてしまったので、ダサい話はここで終わり。最近は本当に寒い。人肌が、恋しい。