人間なんてさびしいね

失恋する権利だけは皆平等に与えられている

ストーカーの話。

 

ずっと好きな人がいた。

4歳から20うんねん歳、3日坊主の私が唯一続けたのがツイッターと初恋だ。

 

好きな人は何人かいたことはあったが、多分20年以上その人がずっと一番好きだ。好きな人ができないと周りには伝えていたが、終わらない恋をしていただけだ。ストーカー気質なのか、執着故なのか、終えるタイミングが掴めなかったせいか、いい男に言い寄られた経験がないせいか、ともかく色んな事象が重なり、こんな歳まで長引いてしまった。

今日の朝、夢の中でああ一生この夢が覚めなければいいのにと願った。夢の中でも夢だとわかっていた。絶対に叶わないと知っている。

 

 

最近よく彼の夢を見た。

恥ずかしくて顔を真っ直ぐに見たことなかったのに、その輪郭は正確に彼を再現していた。一番好きなホクロも、何ひとつ強調されることなく、ただあの人が存在していた。そこまではたまに見る夢でも出てきた。

 

今日は、彼と付き合った夢を見た。

高架下で友達(思い返すと知らない人ばかりだった)と歩く最中、付き合ったのが信じられなくてぼーとしている。誰にも言わなかった。まだこのときめきを独り占めしていたかった。居酒屋さんだった。誕生日だったのかもしれない。なにかを祝われた。ケーキは食べなかったけどケーキのろうそくやデコレーションされたケーキ皿が暖色に煌めいていた。

そこから気づくと家(本当の家じゃなかった)にいた。付き合えたのが嬉しくて、私の気持ちと彼の気持ちがおんなじことがこんなにも嬉しいものなのかと、夢の中で彼を空想していた。何も用はないのに連絡したくなった。彼に連絡すると、すぐに返事が返ってきた。何を書いてるかは分からなかったけど、それが嬉しくて、次は会いたくなった。視界にいないと落ち着かない気持ちで、返信したら来てくれることになった。そしたら、本当にものの数秒で来てくれた。遠くにいても、私の好きな低い咳払いの声がしたから、すぐにわかった。夢の中だから不自然だと思わなかった。真夜中で薄暗いのに、黒い影の落ちる横顔がいとおしそうに笑っていた。私も自分がその顔を見て笑っているのが分かった。「この人は私にこういう顔をしてくれるようになったんだ。やっぱり、本当に、私のことが好きなんだ」と泣いてしまった。夢の中じゃなくて、現実の私が泣いているのがわかった。

幸せの絶頂を見届けて、私は起きて犬を撫で、カチカチのクロワッサンを食べながら一人泣きしぐれた。

 

 

 

 

ずっとお金が欲しかった。一番可愛くなりたかった。知り合いの誰よりも細くなりたかった。猫背を直したかった。低い声が嫌だった。結婚したかった。それはきっと貴方に繋がる道だった。

そんなこと、どうだってよかったのだ。全部いらないってやっと分かった。そんなことをしなくたって、一つ叶えばいい。ただ唯一。ただ対等になりたかった。私が考えているのと同じくらい私のことを考えて欲しかった。私のことを好きになって欲しかった。私のことを世界で一番好きだって言って欲しかった。私が生まれてから、私の世界でずっと一番好きだった人に。

 

 

 

全部ここで吐き出そう。あの時勉強が出来なくて泣いたのは、貴方と一緒になれなかったから。貴方に情けないところを見られたから。猫背を治そうと思ったのは、貴方がそっちの方が可愛いって言ってくれたから。

 

貴方のストーカーだったから全部覚えてる。

幼稚園で物心ついた時にはもう貴方のことが好きだった。貴方についてって男子トイレに入って先生に怒られた事もあった。

小学校に入ると貴方がポケモンにハマったから、私もポケモンをやり始めた。貴方と交換したグラエナペリッパーをまだ大事に持っているし、貴方は私のハムスターパラダイスのカセットを借りパクしたままだ。

中学の貴方は一番モテていて、体育のテニスの授業で同じクラスのテニス部の子じゃなくて、ラケットをわざわざ私に借りにくることに優越感があった。

勉強出来なかった私は、賢い貴方と同じ高校に行けるってなった時、死ぬほど嬉しかった。

高校では、2年のクラスが一緒になって、名前順の席が隣だった時はもう運命だと思った。テストの直前に貴方にテストのヤマを聞くのが好きだった。終わった後にヤマが全然出なかったり当たったりをリアクションし合うのも好きだった。修学旅行のレクリエーションの時にトイレで会って、2人で撮った写真を今でも見返してしまう。

違うクラスになっても、3年間タスキを縫ってと貴方から託されることが体育祭で一番楽しみだった。一回貴方の友達がタスキ縫うのうまいなって貴方に言ってて、私にやってもらったって言ってるのを横目に聞いた時はすごくニヤけた。

あまり思い出したくないけど、文化祭の劇でやりたくもない主役をやって、私のあがり症のせいで劇を台無しにした最悪な思い出だけど、貴方と主役をやれたことだけは良かったと思ってる。

 

付き合っているのかと聞かれたり、貴方の好きなタイプを他の子達が私に探りを入れてくるたび、舞い上がった。一番貴方に近い存在が私だって皆んなが言ってくれている気持ちになったから。

どんな美人な子が告白しても断っていると安心した。私にもチャンスがあるかもって思えたから。仲のいい男子ができるたび、貴方からあいつのこと好きなん?って聞かれるのが嬉しかった。私を見てくれているって安心したから。

秘密主義で女の子に趣味や好きなものや何してるか聞かれてもテキトーに誤魔化す貴方が、コレ聴いてくれって勝手に私のipodのデータ消して自分の曲データ同期してきたり、携帯で録画したガキ使見せてきたり、ラッドのライブ当たったのを自慢してきたり、100点のテストや書道の上手い字を見せてくるのが可愛かった。私に心を許してくれてるんだな、って気にさせたから。

小学校で友達に誘われた塾に体験入学した時、たまたま貴方がいた時はびっくりした。貧乏で習い事をさせてくれなかったお母さんに塾に通いたいと必死でごねた。大学入学するまで通った塾は勉強が大変だった。でも塾の帰り道で、他の女の子達が話しかけてきてるのに自転車をするする通り抜けて、変顔しながら通り過ぎては減速して話してこようとしてくるし、家まで絶対送ってくれるから毎日楽しみだった。

お金ないくせに私が高校でバイトしてたパスタ屋に来てくれて、友達連れてきてドリンクバーだけ飲んで迷惑がられてたのが面白かった。大学で本屋のバイト始めたら、誰かから聞いたらしく貴方もバイト応募してきて、私のコネを使ったのに面接に落ちたのも最高に笑った。結局貴方が同じ建物にあった映画館でバイトし始めて、シフトが合う日は昔みたいに家まで送ってくれた。結局つまんないからって映画館を半年もしないうちに辞めて、そこから疎遠になってしまった。

 

男の子と2人きりの初デートが貴方だったこと、一生の誇りだった。一緒にマフラーを選んだ。メイクが下手でプリクラがブサイクだったこと、きっと死ぬまで引きずる。

幼稚園で違うバスだったけど、私の家に遊びに来る時だけ同じバスに乗ってくれたのが嬉しかった。小学校に入学した時、知り合いがいなくて、怖くてどうしようって不安で廊下を出た。振り向くと違うクラスの貴方も不安そうに、ついて来てた。気のせいかと思ってクラスに戻ったら、やっぱりついて来て黙って私の机に来たこと。あの光景を思い出すたびに涙が出てくる。

 

 

夕暮れの堤防でback numberの恋を聴いていて、貴方のことを考えていた。そしたら貴方は後ろから私を抜かして、そして速度を落として笑ってくれた。あの瞬間が人生で一番幸せだった。青春の最高峰はあの堤防。それから堤防が好きになった。back numberの恋が好きになった。今はもう苦しくて聴く気になれない。

 

また違う日の学校の帰り、一緒に帰っていたら貴方の自転車がパンクして、何故か貴方が後ろに乗って私が自転車を漕いで帰った。恥ずかしくてずっと笑ってた。私に幸運をもたらす自転車が好きになった。

今ならバイクにも車にも、新幹線や飛行機だって乗れるのに、それでも自転車で堤防を走るのが好きなのは、節約でも健康のためでもなくて、あの時の幸福感が私を包み込んでくれるからなんだろう。

 

高校までに出会った女子を全員名字で呼んでるのに、私にはバカみたいなあだ名を付けて今でもずっと呼び続けてくれてること。声が好きで、大人になってから出てきた喉仏も好きだった。喉仏がカッコいいって言うと、なんそれって笑ってくれたこと。ずっと喋っていたかった。

 

 

 

口の軽い私が、今まで一度も貴方の事を好きだと漏らさなかった。どれだけ浮かれても酔っ払ってもそんな素振りを徹底的に見せなかった。それが少しでも長く一緒にいられる一番の近道だってわかってたから。友達に相談して貴方への恋心をバラされる子、告白する子、近くでいっぱい見ていた。

小学校のバレンタイン、貴方のことを入学時から好きってことで有名だった子が貴方に高そうなチョコを渡してて、帰り道で貴方がチョコを自販機の横に捨てた時、私は絶対にチョコを渡さないと決めた。高校で仲のいい男子にチョコをあげた時にたかられた時でさえあげなかった。

私と仲が良い友達の話をすると、貴方はあいつキモいから無理と言った。しばらくして友達が貴方に告白していたことを風の噂で聞いた。私は馬鹿なので、貴方は、貴方のことが好きな女子が嫌いなのだと勘違いしてしまった。

 

つい数日前に彼がマザコンだった事に気がついた。彼とはじめて付き合った子、彼のお母さんにそっくりだった。私が毎日一緒にいた大好きな、親友だった。

貴方が公園で勿体ぶってニヤけながら話した内容が、私に滅多に言わない「可愛い」を親友に言って、告白のプラン考えようと持ち出された時。

 

小さいお弁当を作ってもらってる事が無意味になってしまった。

嫌いな勉強が、貴方に渡せた音楽の趣味が、明るいキャラが、貴方のお母さんへの媚売りが、今までの努力とも言えない私の何か全てが。

 

貴方に親友を取られて、親友に貴方を取られて、漫画みたいな展開に、幸福な気持ちとムカつく気持ちとその他もろもろが全て混ざった。人の心は複合的なんだとその時初めて気付いた。

二人が別れて、私より頭が良かった親友の成績が下がって、私より頭が悪かった貴方の成績がみるみる伸びて、私はもう色々と気持ちが追いつかなくなって、それから全員疎遠になってしまった。でも成人式で、久々に再開して、皆の中だけど3人でまた写真を撮れたから。もう会うことないだろうけど、最後は幸せそうに笑えてよかった。

成人式の飲み会で会った時、知らない女の子と付き合ってるって聞いてこれまた絶望した。就活の時に東京行くって聞いて、私も千葉だったから嬉しかったけど結局一度も会わなかった。

貴方が結婚したってインスタで見て、その時アイコンを見ようとしたら最後のラインが3年前になっていた。

貴方の奥さんは、私の地元にいなかったタイプの都会で洗練された人だった。会ったことはないけど、良い人だと思う。私の親友も良い子だったから。

 

地元の知り合いに会うと、〇〇君は元気?と貴方の近況を聞かれた。成人式以来会ってないから分からないと答えると皆がつまんなそうにした。次第に貴方の話題は私の世界から無くなっていった。

 

貴方との思い出がこんなにあるのに、貴方との思い出を語れる相手が貴方しかいないから孤独になった。

 

貴方が結婚してからは、私はどこで人生を間違えたんだろうって毎日考えている。最近貴方が大阪に来ることが多くて、会うたびにやつれててほしいとか、隈が出来てるとか願ってたけど、相変わらず昔のままかっこよくて、私はもう自分が嫌になりそうだ。

 

顔がかっこよかったから好きだった。かっこいいくせに女子を冷たくあしらって、でも私にだけ少し特別扱いをしてくれる貴方の行動が好きだった。

こんなに好きだったけど、性格は情けなくて、優しさが欠如していて、女々しくて、芯がなくて、あんまり好きじゃない。だから、多分私がもし死んでも、貴方は何とも思わない。

 

 

今日の夢、一生忘れない。

この初恋を終わらせないと、一生前に進めない。こんなのもう恋とは言えない。幻想への依存でしかない。でもこんな幸福を置いて、前に進むのがそんなに素晴らしいことなのだろうか。何もいらなかったから、彼と一緒だけでよかったのに。

ずっと前に終わっていた恋に似た何かを、やっと終わらせたい。あまりにも少女漫画を切り取ったような恋だったからこんな歳までつい縋ってしまった。結婚している男に、惨めなストーカー女ですが、下品にも明日告白しようと思います。

 

 

私の初恋泥棒よ、人生を賭けた愛でもくらえ。